タキオンの文学やSFでの応用(タイムマシンなど)
タキオン(tachyon)は、光より速く移動できる仮説上の粒子として物理学だけでなく文学やSF(サイエンス・フィクション)の中でも豊かな想像力を刺激してきました。
ここではタキオンがどのようにSFや文学で応用されているかをご紹介します。
タキオンのSF・文学での応用
1. タイムトラベルと因果律の逆転
タキオンは光速を超えて移動することで「時間を遡る」ような通信や移動が可能になると考えられたため、多くの作品で「過去との通信」「未来からの警告」「時間の逆転」などに利用されます。
例:
- 『スタートレック』シリーズ
タキオンを用いた通信や「時間的異常」の検出がたびたび登場。
タイムトラベルや異常現象のトリガーになる。 - 『Watchmen(ウォッチメン)』/アラン・ムーア
Dr.マンハッタンがタキオンによる時間的な混乱を経験することで予知能力が混乱する描写がある。 - 『The Tachyon Web』/クリストファー・ローランド
人類がタキオン技術を使って他の惑星と即時通信を行うが因果律的な危険にさらされる。
2. 超高速通信(タキオン通信)
タキオンは「光速を超える通信媒体」として星間通信や銀河間ネットワークの構築に使われることが多いです。
例:
- グレッグ・イーガンの短編ではタキオン通信が量子情報理論と絡めて描かれ、因果律の制約とのせめぎ合いがテーマになる。
- SFゲームやアニメ(例:『機動戦士ガンダム』シリーズ)でもタキオン通信を使ったリアルタイム戦術通信が描かれる。
3. 予知能力や未来知覚のメタファー
タキオンを未来から現在に情報を送る粒子として比喩的に使い「予知能力」や「未来視」の科学的裏づけとして登場させることもあります。
例:
- 『Destiny(運命)』という概念と絡めて予言の力をタキオン粒子で説明する作品もある。
- 未来に発生した事象がタキオンを通じて過去に届く → 未来を知るが変えることができるのか?という因果のジレンマを描く。
4. パラレルワールドや多世界解釈との関連
タキオンを「他の時空間との干渉媒介」とみなし平行宇宙間の接続や情報干渉のトリガーとして使うことも。
タキオンがもたらすSF的テーマ
応用テーマ | 内容 |
タイムトラベル | 光速を超える → 時間逆行 → 過去への干渉 |
因果律の破れ | 「未来→現在」や「結果→原因」の逆転 |
高速通信 | 宇宙スケールでのリアルタイム通信、ワープ航法補助など |
多世界・量子宇宙 | タキオンで平行宇宙間の通信・干渉 |
意識・未来視 | 「予知」や「未来記憶」の物理的メタファーとしての活用 |
まとめ
- タキオンは科学的には未確認で問題の多い仮説上の粒子ですが、SF世界では時空を超える通信や時間旅行、因果律破れなどの想像力を支える中心的アイテムです。
- 物理学の仮説が文学的想像力を広げる役割を果たしており、タキオンはその典型例です。
具体的なSF作品ごとのタキオン描写や、使われ方の比較

以下に具体的なSF作品におけるタキオンの描写や使われ方の違いを比較形式で詳しくご紹介します。
各作品は異なる物理的・物語的コンテキストでタキオンを活用しておりその創造性と解釈の幅は非常に広いです。
タキオンの描写と使われ方:SF作品別比較表
作品名・媒体 | タキオンの使い方 | 科学的設定 | 主なテーマ | コメント |
スタートレック(TV/映画) | タキオン粒子を時間異常の検出や通信・ワープのトリガーに使用 | 架空の「タキオン検出器」や「タキオン通信」装置が登場 | タイムトラベル、異常検知、超光速通信 | タキオンがSF技術の象徴として頻繁に登場。因果律の危険にも言及される。 |
Watchmen(ウォッチメン) by アラン・ムーア | タキオン放射によって未来視能力(Dr.マンハッタン)の混乱を引き起こす | 未来を「見る」ことを妨げるノイズとして描写 | 自由意志 vs 宿命論、予知の限界 | タキオンを「時間に関する干渉粒子」として物語に絡めた巧妙な使い方。 |
The Tachyon Web by Christopher Rowley | 銀河間通信ネットワークとしてのタキオン網(Web)を構築 | 即時通信(FTL)だが、制御困難で危険を孕む | 人類の技術進化と文明崩壊のリスク | タキオン技術が物語の核であり、暴走の危険がテーマ。 |
Ender’s Game(エンダーのゲーム) by オーソン・スコット・カード | 明言はされないが、「アンスブル通信」はタキオン通信と解釈されることが多い | 光速を超える通信が戦略の要 | 非対称戦争、戦術、時間遅延の克服 | 戦術的リアルタイム通信が可能な前提が物語展開の鍵。 |
Hyperion Cantos by ダン・シモンズ | タキオン粒子を通じたAI間の通信や「時空の転送装置」に使用 | 仮想物理理論と宗教的テーマが融合 | 意識の移動、未来予知、存在の分散 | タキオンは複雑なテクノロジーや哲学の中核に位置付けられる。 |
The Flash(TVドラマ) | タキオン粒子が超高速移動のエネルギー源・時間移動装置に使われる | 時空を超える物理的媒体 | タイムトラベル、パラレルワールド | ファンタジー寄りだが、視聴者への技術的説明も多い。 |
Babylon 5(TVドラマ) | タキオンを通信と推進理論に使用 | FTL通信の基盤理論 | 政治的陰謀、技術と倫理 | 高度な科学技術設定の一環で、リアリズムに寄せた表現。 |
タキオンの使われ方の「傾向」
用途カテゴリ | 使われ方の例 | 代表作 |
時間旅行のトリガー | タキオンによる未来への接続や過去干渉 | スタートレック、The Flash |
予知・未来視干渉 | タキオンで未来知覚を妨害 | Watchmen |
FTL通信(超光速通信) | 銀河間通信、即時メッセージ交換 | The Tachyon Web、エンダーのゲーム |
ワープ航法やエネルギー源 | タキオンによる異空間航法や出力装置 | Babylon 5、Flash |
哲学的・宗教的象徴 | タキオン=時間を超える存在、神の視点 | Hyperion Cantos |
補足:現実との違い
- 科学的にはタキオンは未発見であり理論的に因果律を破る可能性があるため多くの物理学者は現実的ではないと考えています。
- しかしSFではその“物理的禁忌”が想像力の扉となり時間・空間・意識を超えた物語が展開されます。
日本のSF作品(例:伊藤計劃、筒井康隆、アニメ作品など)におけるタキオン表現のまとめ

以下に日本のSF作品(小説・アニメ・ゲーム等)におけるタキオンの表現・使われ方をジャンル別・作品別にまとめました。
欧米の作品に比べて日本ではタキオンはSFガジェットとしての便利なツールでありつつも時間・記憶・因果律をテーマにした哲学的な演出にも活用されています。
日本のSF作品におけるタキオンの使われ方【一覧】
作品名 | 媒体 | タキオンの使用例 | 主な役割・テーマ |
ハーモニー(伊藤計劃) | 小説 | タキオン通信を示唆する「監視の即時性」技術に含意 | 意識と情報の支配。明示的ではないが理論背景に影響あり |
パプリカ(筒井康隆) | 小説・アニメ | タキオン自体は未登場だが、夢と現実の干渉を物理現象として扱う | 潜在意識干渉における“時間性”がテーマ、近接領域 |
STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート) | アニメ・ゲーム | タキオンは「Dメール(過去へのメール)」の理論的裏付けに使用 | タイムリープ、記憶と運命改変、因果律の逆転 |
ドラえもん(映画版) | アニメ | 「タキオンライト」など超科学道具に名前使用 | 超光速移動、ファンタジー的応用 |
エヴァンゲリオン新劇場版 | アニメ | 量子レベルでの干渉描写、明示はされないが“ATフィールド”がタキオン干渉的に描かれることも | 時空・意識・存在論、哲学的視点で近似的使用 |
星を継ぐもの(小川一水のオマージュ含む) | 小説 | 未来文明の通信にタキオン通信が登場 | 宇宙考古学と未来文明の描写における高次技術 |
ゼーガペイン | アニメ | 量子サーバー内の仮想世界=タキオン場のように機能 | 実在と非実在、記憶とデータ転送 |
ファイナルファンタジーシリーズ(FF13など) | ゲーム | タキオン粒子で時空間移動や魔法的効果を演出 | ファンタジーに近いが、科学SFの味付け |
イリヤの空、UFOの夏(秋山瑞人) | 小説・アニメ | 高次元干渉兵器としてタキオン・ビームのようなものを描写 | 記憶改変・存在改変とタキオン的物理解釈が混ざる |
日本作品のタキオン使用の傾向
類型 | 内容 | 備考 |
時間操作 | タキオン=過去への情報伝達や未来予知の手段 | シュタインズ・ゲート、伊藤計劃の系譜 |
量子干渉 | 「記憶」「意識」「仮想世界」との結びつきが強い | ゼーガペイン、エヴァンゲリオンなど |
超技術の記号化 | 「未来の科学」を示すラベルとしてタキオンが使われる | ドラえもん、FFなど |
物語装置(プロットトリガー) | 因果律の崩壊や「運命を変える」テーマと連動 | タキオンを時間遡行の口実に |
まとめ:日本SFにおけるタキオンの意味合い
- 日本ではタキオンは「科学的っぽい説明可能な魔法」として機能。
- 時間・記憶・意識・存在といった深いテーマの演出装置として多用される。
- 明示的でなくとも量子や因果律逆転の裏付けとして“見えない存在”として潜んでいるケースが多い。
タキオンと類似するフィクション概念(例:量子テレポート、クロノ粒子など)との比較

タキオン(Tachyon)とSF作品で登場する類似の物理/フィクション概念(例:量子テレポート、クロノ粒子、ヒッグス粒子など)を比較すると、それぞれが担っている物語的役割や科学的ベースが異なります。
以下に主要な類似概念との比較表とテーマごとの整理を行います。
類似するフィクション概念とタキオンの比較
概念名 | 説明・性質 | 主な使われ方(SF作品例) | タキオンとの比較 |
タキオン(Tachyon) | 光速を超える仮想粒子。理論上は因果律を破る。 | 時間移動、未来予知、逆因果干渉(例:シュタインズ・ゲート、スタートレック) | 中心テーマが因果律逆転。未来からの通信・警告・運命操作 |
量子テレポーテーション | 量子状態を非局所的に転送。観測と情報の共有。 | 転送技術、記憶の共有(例:ガンダムSEED、攻殻機動隊) | 時間ではなく「空間の瞬間的転送」が主。タキオンは未来→過去の情報転送 |
クロノ粒子(Chronoton Particle) | SF用語。時間軸に沿って存在する粒子。時間操作に用いられる。 | タイムマシンの燃料・触媒(例:スタートレック、ドラえもん) | タキオンと同様、時間干渉の媒体。架空の概念で使いやすさがある |
ヒッグス粒子(Higgs Boson) | 質量の起源となる場の担い手。標準模型で実在。 | 世界観のリアリティ付加(例:エヴァンゲリオン、ナノハ) | タキオンが質量虚数であるのに対し、ヒッグスは質量の源=逆概念的存在 |
ニュートリノ(Neutrino) | 質量がほとんどゼロで、光に近い速度で動く粒子。 | 宇宙通信、エネルギー源(例:2001年宇宙の旅、宇宙戦艦ヤマト) | 科学的には最も現実的な“ほぼタキオン”。しかし因果律逆転の要素は薄い |
エーテル(Aether) | 宇宙を満たす仮想媒質。古典物理。 | 魔法的な媒体(例:FFシリーズ、鋼の錬金術師) | タキオンが時空を貫く粒子なら、エーテルは時空の媒質という対比 |
テーマごとのまとめ:タキオンと他概念の違い
テーマ | タキオン | 近い概念 | 相違点 |
時間操作 | ◎(未来→過去) | クロノ粒子、ワームホール | タキオンは主に「情報」の逆流に使われる |
瞬間移動 | △(粒子は移動) | 量子テレポート | タキオンは物体ではなく粒子や信号。テレポートは状態を転送 |
因果律の崩壊 | ◎(逆因果的効果) | ワームホール、クロノ粒子 | 他の概念は比較的因果律を保つ |
量子的存在/曖昧性 | ○(理論上不安定) | ニュートリノ、ヒッグス粒子 | タキオンは実在が否定的、他は確認または仮説上安定 |
ファンタジー/魔法的使用 | ◯ | エーテル、クロノ粒子 | SFとファンタジーの橋渡し的役割を果たす |
まとめ
- タキオンは「未来→過去」への情報転送というテーマ性に特化。
- 他の粒子(量子テレポート、クロノ粒子など)は空間・時間移動や存在変換のメタファーとして使用されがち。
- 特に日本の作品ではタキオン=「逆再生される因果律」の象徴として使われることが多く、時間と記憶、運命の書き換えに密接に関連しています。
宇宙戦艦ヤマトにおけるタキオンの使われ方
「タキオン」が登場する元祖的な日本SF『宇宙戦艦ヤマト』シリーズにおいて「タキオン」は主に通信や推進理論、または超光速現象を説明するためのSF的道具立てとして登場します。
以下にその特徴的な使われ方を解説します。
宇宙戦艦ヤマトにおけるタキオンの役割と描写
1. 超光速通信手段としてのタキオン
ヤマト世界では地球と遠方の宇宙文明とのリアルタイム通信が頻繁に行われます。
現実の光速通信では数光年離れた相手とのやりとりに膨大な時間がかかるためこれを解決する理論的な背景として「タキオン通信」が使われています。
- タキオン = 光速を超える粒子という前提のもと、情報伝達手段に転用。
- 現実的には不可能だが、SF的に「タイムラグのない通信」を正当化するために登場。
2. 波動エンジン・ワープ理論とタキオン
タキオンはヤマトの推進システムである波動エンジンやワープ航法とも間接的に結びついています。
- 作中で明示されることは多くありませんが波動エネルギーの理論背景として一部資料やスピンオフ設定にタキオン場理論が登場。
- 波動ワープが時空の歪曲(局所的な特異点)を通じて一瞬で空間移動することをタキオンを使ってモデル化するという設定があります。
3. 戦術兵器と時間干渉
シリーズ後半(例:『ヤマト2199』『ヤマト2202』)では時間干渉を伴う兵器や観測機器の描写が増加しそこでもタキオンが理論的支柱になります。
- 例:敵が放つ時間遅延爆弾や多次元探知機などの描写にタキオンが関与する設定がある。
- 一部では「未来の行動を観測できる」「過去の痕跡を読み取る」といったタキオンによる因果律への干渉が示唆されています。
タキオンの役割のまとめ(ヤマト世界観)
役割 | 内容 | 使用目的 |
通信手段 | タキオン通信 | 地球⇔宇宙文明間のリアルタイム交信 |
航法理論 | タキオンを含む波動場理論 | ワープ航法・空間跳躍の正当化 |
時間干渉 | タキオン探知、兵器 | 未来予知・時間遅延の演出 |
SF的意義
『宇宙戦艦ヤマト』におけるタキオンの扱いは「現代物理では説明できない現象」を科学的に“もっともらしく”見せるための技術設定の潤滑油として活躍しています。
物語上は時間・空間・エネルギーを自在に扱う超技術の核心を担う存在として重要です。
ヤマト以外の日本SFアニメ(例:エヴァンゲリオン、シュタインズ・ゲートなど)との比較表
以下に『宇宙戦艦ヤマト』を含む日本SFアニメ作品における「タキオン」または類似する超光速・時間干渉的な概念の使われ方を比較表形式でまとめました。
日本SFアニメにおける「タキオン」または類似概念の比較表
作品名 | 概念・用語 | 登場の目的 | 描写の特徴 | タキオンとの関係性 |
宇宙戦艦ヤマト | タキオン通信、タキオン場理論 | 超光速通信・ワープ航法の理論支柱 | 科学技術を正当化するための設定 | 直接登場、波動理論と連携 |
新世紀エヴァンゲリオン | ディラックの海、ATフィールド、S²機関 | 物理法則の逸脱・超常エネルギー | 哲学・量子論に基づいた多層構造 | 暗示的にタキオン的性質(時空・物理法則の超越)を含む |
シュタインズ・ゲート | タイムリープ、リーディングシュタイナー、Dメール | 過去改変・世界線移動 | 情報の時間逆行を主軸としたSF | 直接タキオンは出ないが、仮想粒子的・量子情報的要素が近い |
交響詩篇エウレカセブン | スカブコーラル、トラパー粒子 | 意識融合・空間変異・超存在との対話 | 生物と時空を結ぶ媒体として粒子が登場 | トラパー粒子がタキオン的性質(共鳴・超伝導的伝播)を示唆 |
トップをねらえ! | ブラックホール爆弾、オカエリナサイ通信 | 超時空航法・未来干渉 | 相対論と因果律の逆転を描く | 光速を超える航法の副作用としてタキオン的挙動が背景に |
STEINS;GATE 0 | アマデウスAI、時間跳躍理論 | デジタル人格と時間操作 | 人格と情報の非同期性の追求 | 量子記録や粒子通信的設定がタキオン通信に近い |
時をかける少女 | タイムリープ(薬剤依存) | 思春期と時間テーマの融合 | 個人的体験としての時空跳躍 | 粒子としては不登場だが、時間干渉テーマ上は共通性あり |
分析まとめ
- 『宇宙戦艦ヤマト』はタキオンを“実体的な物理粒子”として設定に明示活用。
- 『エヴァンゲリオン』『エウレカ』『トップをねらえ!』などはタキオンのような「超光速・超因果的性質」を持つ粒子や場を曖昧に含める傾向。
- 『シュタインズ・ゲート』『時をかける少女』は粒子としての描写は薄いが、「時間逆行=タキオン的情報伝播」という考えと一致。
補足
タキオン的な粒子(虚数質量を持ち因果律を逆行するような存在)は直接登場しなくても「時間を越える通信・情報・存在」を描く多くの日本SF作品で観念的にしばしば裏打ちとして使われています。
コメント