タキオン粒子の検出はできる?

現時点(2025年)において、タキオン粒子(tachyon)は理論上の存在にとどまっており、検出されたという科学的な証拠は一切ありません。
タキオンとは?
- 相対性理論における仮想粒子で、「光速を超えて移動する」とされます。
- 通常の粒子(ターディオン)とは異なり、「質量が虚数(√-1の倍)」であるという特性を持ちます。
- あくまで数学的な解として現れるだけで、物理的実在性は確認されていません。
タキオン粒子を検出できない理由
- 光速より速く動く粒子は、時間を逆行するように見える
- 現代物理ではこれを整合的に扱う理論が確立されていません。
- 検出装置は光速以下の粒子の通過しか想定していない
- タキオンが存在したとしても、現行の検出技術(LHCなど)では捕らえられません。
- 理論上も自己矛盾が多い
- タキオンが情報を運べると、「因果律(原因と結果の順序)」が破れる可能性があるとされ、これが物理学的に問題視されています。
補足:過去の誤解や誤報
- 2011年に「ニュートリノが光速を超えたかもしれない」というOPERA実験の誤報が話題になりましたが、これは測定ミスでした。
- それ以外にタキオンを示唆するデータは存在していません。
結論
タキオン粒子は現時点では検出できません。存在も未確認です。
タキオンは物理理論の中で「制限を越えるもの」を考察するためのツールとして扱われていますが、実在の証拠はなく、検出技術も存在しません。
ご希望があれば、「タキオン粒子が検出されたら起こるかもしれない未来」など、SF的な視点での考察もできますよ。興味はありますか?
質量が虚数である粒子を示す式は?

ここでは「虚数」という概念が出てきます。
小学生でもわかるように「虚数」を説明してみます。
「正確にはそうじゃない」という専門家の方々もいらっしゃるかもしれませんが、あくまでも話を単純化してみます。
二乗とは
同じ図を掛け算することを「二乗」と言います。
3 X 3 = 9となります。
「二乗」という言葉を使う時は、

と書き表します。
3を2や6や7などどんな数字も置き換えるとができます。
なので”3”の部分を「X」とか「a」などと別の文字で表しておくと便利だと気づいた人がおります。

と書かれていたら「エックスの二乗」と言います。
平方根とは
同じ図を二回掛け算ることを二乗と言いますね。
では、9は何を二回掛けたものでしょうか?
3ですね。
この「3」のことを「平方根」という言い方をします。
それをこんな風に書き表します。

虚数を簡単に言うと
ここからはちょっと中学生の知識が必要になってしまいます。
“マイナス”っていう奴です。
―3はマイナス3ですね。
3 X 3 = 9は
+3 X +3 = 9 とも書けます。
―3 X ―3 = 9 となります。
―3 X +3 = ―9となります。
最後の青太字の部分がクセモノです。
二乗じゃないじゃん。―3と+3は別の数じゃないか。
きっとそうおっしゃられるでしょう。
つまり9の平方根は「3」でもあり「―3」でもあるのです。
でも先に出た= ―9になる数(平方根)というのもあるの?
そんな数はありえないよ!
そうなんです。実体としてそんな数はないのですが、数式上はあり得るのです。
それを仮に小文字の「i」(アルファベットのアイ)と表現すると数学のエライ先生が決めました。
実際にはあり得ない数なので虚構というか虚しい数なので「i」を虚数と呼びます。
タキオンのような「質量が虚数」の粒子は、相対性理論におけるエネルギー・運動量関係式を通じて表現されます。
「質量が虚数」ってどういうことなの?
ローレンツ変換

これまた聞き慣れない言葉を使わなければなりません。
ローレンツ変換をWebで調べても日本語か?と思うような解説しか出てきません。
もう少しわかりやすく説明できないか考えてみました。
専門家からすると「アホちゃうか」と言われてしまうのかもしれませんが。
例えば
地球の周回軌道を回っている国際宇宙ステーションに滞在中の安倍クンが
光速近くまで加速されたUFOに乗せられた石破クンを見ているとします。
石破クンは宇宙人から配給されたおにぎりを床に落としてしまいます。
石破クンから見ると手元から落ちたおにぎりはUFOの床に落ちるまで1秒かかったように見えました。
でもそれを笑うように見ている安倍クンからは石破クンが落としたおにぎりが床に落ちるまで1.5秒かかったように見えました。
なぜかと言うと安倍クンから見ると石破クンはあまりにも早く移動しているので、斜めに落ちているように見えるからです。
石破クンからはまっすぐに直線で床に落ちるように見える、安部クンからは斜めに落ちるように見える。
斜めのほうが距離が長いですよね。
その分、安部クンからは落ちるおにぎりの対空時間が長く見えるのです。
もう少し言い換えると安倍クンからは光速に近いスピードで進むUFO内の出来事がゆっくりに見えるのです。
「ローレンツ変換」をググってみると下記のように出てきます。
ローレンツ変換とは、特殊相対性理論において、互いに一定の速度で動いている座標系間で、空間座標と時間座標の関係を定める変換です。簡単に言えば、異なる速度で動く観測者同士の間で、どのように空間と時間の測定値が対応するのかを表すルールです。
ローレンツ変換におけるエネルギー・運動量関係式
通常の粒子(実在する粒子)の関係式は以下です。

E2=p2c2+m2c4E^2 = p^2c^2 + m^2c^4
- E:エネルギー
- p:運動量
- m:粒子の静止質量(実数)
- c:光速
二乗だの3乗だの出てきますが、ただの掛け算と足し算の組合せですね。
運動量と速度を足しただけではなく、それぞれになぜか光速を掛けてます。
でもこれらを足したものがエネルギーとしてます。
そういうものだと思って下さい。
タキオン(虚数質量をもつ仮想粒子)の場合
タキオンは「光速より速く動く粒子」とされ、質量 m を虚数と仮定します。
出て来ましたね。「虚数」が。
何だったっけ?と思ったら今一度上記の「虚数」のとこに戻ってみて下さい。
その上でさらに読み進める。

m=iμ(μ∈R, 実数)m = i\mu \quad (\mu \in \mathbb{R},\ \text{実数})
ちょっと待て!
μ(ミュー)なんて初めて出てきたぞ。
「μ ∈ R」がポイントです。
「μ ∈ R」はμという記号が実数全体の集合に属することを意味します。
つまりμは実数であるということです。
実数とは有理数と無理数を合わせたものです。
有理数と無理数って何?
有理数とは分数で表すことができる数のことで、整数、小数、分数なども含まれます。
一方、無理数とは分数で表すことができない数で√で表される数や円周率(π)などが挙げられます。
で、話を進めます。
これをエネルギー式に代入すると

E2=p2c2+(iμ)2c4=p2c2−μ2c4E^2 = p^2c^2 + (i\mu)^2 c^4 = p^2c^2 – \mu^2 c^4
すなわち

E2=p2c2−μ2c4E^2 = p^2c^2 – \mu^2 c^4
解釈と問題点
- この式から、タキオンのエネルギーは運動量が十分大きくないと虚数になってしまうという問題があります。
- つまり、低速時(=光速より遅い領域)では実数のエネルギーが定義できないため、光速以下では存在できず、常に光速を超えていなければならない。
- こうした性質のため、タキオンは因果律(時間の順序)を乱す可能性があるとして、ほとんどの物理学者は実在性に懐疑的です。
要点まとめ
タキオンのエネルギー式

E2=p2c2−μ2c4E^2 = p^2c^2 – \mu^2 c^4
ここで μ\mu は実数で、質量 m=iμm = i\mu は虚数です。
次にこの式を使った例題や、タキオンの「速度とエネルギー」の関係などを解説していきます。
タキオンの「速度とエネルギー」の関係

以下では虚数質量を持つ仮想粒子「タキオン」の速度とエネルギーの関係を先ほどの式を用いて物理的に説明します。
基本式(タキオンのエネルギー式)
前回の式を再掲します。

E2=p2c2−μ2c4E^2 = p^2c^2 – \mu^2 c^4
ここで、
- μ\mu は実数(m=iμm = i\mu と定義)
- E:エネルギー
- p:運動量
- c:光速
運動量と速度の関係(特殊相対論より)
通常の粒子では、運動量 pは次式で与えられます。

p=mv1−v2c2p = \frac{mv}{\sqrt{1 – \frac{v^2}{c^2}}}
式が難しくなったように見えますがただの分数ですね。
タキオンは質量が m=iμm = i\mu なので、代入すると

p=iμv1−v2c2p = \frac{i\mu v}{\sqrt{1 – \frac{v^2}{c^2}}}
これは速度 vが光速 cを超えているときにのみ定義可能です。
(それ以外では分母が虚数または無限大になってしまうから)
これを見てわかる通り、ほぼ数式の上で語られてます。
「虚数」という概念を使えば「タキオン粒子」を説明できるのですが、虚数ってことは実体がないものなので「タキオン粒子」などない、検出できないというおかしな話になるのです。
エネルギーと速度の関係(導出)
先ほどのエネルギー式

E2=p2c2−μ2c4E^2 = p^2c^2 – \mu^2 c^4
に pの式を代入します:

E2=(iμv1−v2c2)2c2−μ2c4E^2 = \left( \frac{i\mu v}{\sqrt{1 – \frac{v^2}{c^2}}} \right)^2 c^2 – \mu^2 c^4
計算すると

E2=−μ2v2c21−v2c2−μ2c4E^2 = – \frac{\mu^2 v^2 c^2}{1 – \frac{v^2}{c^2}} – \mu^2 c^4
共通分母にして整理

E2=−μ2c2(v2+c2−v21−v2c2)=−μ2c4(11−v2c2)E^2 = -\mu^2 c^2 \left( \frac{v^2 + c^2 – v^2}{1 – \frac{v^2}{c^2}} \right) = -\mu^2 c^4 \left( \frac{1}{1 – \frac{v^2}{c^2}} \right)
逆数の符号が逆になるので、エネルギーは実数になります。

E=μc2v2c2−1(※正の実数)E = \frac{\mu c^2}{\sqrt{\frac{v^2}{c^2} – 1}} \quad \text{(※正の実数)}
タキオンの速度とエネルギーの関係

E=μc2v2c2−1E = \frac{\mu c^2}{\sqrt{\frac{v^2}{c^2} – 1}}
この式からわかること
速度 vv | エネルギー EE | 解釈 |
v→c+v \to c^+ | E→∞E \to \infty | 光速に近づくとエネルギー無限大 |
v→∞v \to \infty | E→0E \to 0 | 速度が無限大だとエネルギーゼロ |
v>cv > c | EE は有限の実数 | 光速より速いときだけ定義される |
直観的まとめ
- タキオンは、速くなればなるほどエネルギーが小さくなるという、通常の粒子とは逆の関係。
- 光速に近づくほど、必要なエネルギーは無限大になる(光速以下にはなれない)。
- これは特殊相対性理論の枠組みの中で、タキオンが常に光速以上でしか存在できないことを意味します。
グラフでエネルギー-速度関係を図示

上のグラフはタキオンの速度 v>cv > c に対するエネルギー E の関係を示しています。
- タキオンの速度が光速 cに近づくと、エネルギーは無限大に発散します。
- 一方、速度が増す(つまり光速から遠ざかる)につれて、エネルギーは減少します。
つまりタキオンは速くなるほどエネルギーが低くなるという通常の粒子とは逆の特性を持つことになります。
運動量との関係や、因果律との衝突などをさらに詳しく見ていく

タキオン(光速を超える仮説上の粒子)について運動量や因果律(因果関係)との関係を詳しく見ていきましょう。
1. タキオンの運動量との関係
運動量の式(相対論的)
通常の粒子(質量 mの粒子)に対して運動量は以下の式で表されます。

p=mv1−v2c2p = \frac{mv}{\sqrt{1 – \frac{v^2}{c^2}}}
これをタキオンに適用するには質量を虚数(m=iμm = i\mu, μ\muは実数)とし、速度が光速 cを超えている(v>cv > c)とします。
すると、分母の

1−v2c2\sqrt{1 – \frac{v^2}{c^2}}
は虚数になりますが質量が虚数なので結果として運動量 pは実数になります。
●ポイント
- タキオンの運動量は数学的には実数で定義可能。
- しかし、エネルギーと同様に、速度が上がると運動量は減るという逆の挙動をします。
2. タキオンと因果律の衝突
因果律とは?
「原因が先、結果が後に来る」という自然界の基本的な原則です。
タキオンと因果律の矛盾
特殊相対性理論によれば光速を超える情報や物質の伝播が可能になるとある観測者にとっては「結果」が「原因」より先に起きてしまうことが可能になります。
これは「因果律の破れ」につながります。
例:
- 観測者Aがタキオンを発射(原因)。
- 光速を超えて伝わったタキオンを、遠くにいる観測者Bが受信(結果)。
- 観測者Bの慣性系では、タキオンの受信が発射より早くなることもあり得る。
このように、「未来から過去への通信」が可能になってしまい、時間的矛盾(タイムパラドックス)が発生します。
3. なぜタキオンはあくまで“仮説”なのか?
- 実験的証拠が一切ない(検出されていない)。
- 因果律との矛盾が致命的。
- 量子論との整合性が取れない可能性が高い(タキオン場を理論に組み込むと不安定性が生じる)。
まとめ
項目 | 通常粒子(ブレイディオン) | タキオン |
速度 | v<cv < c | v>cv > c |
エネルギー | 増加すると速度増加 | 増加すると速度減少 |
運動量 | 実数 | 実数(仮定上) |
因果律との関係 | 保たれる | 破られる可能性あり(時間逆転) |
以下は少し専門的になるため数学や理論物理学を齧ったことある人向けです。
「小学生でもわかる」ようにとはいかないので噛み砕いた解説はしません。
タキオンを含んだ場の理論(タキオン場)

「タキオン場(Tachyon field)」は理論物理学とくに量子場理論(QFT)や弦理論の文脈で登場する仮想的な物理モデルです。
これは「光速を超える粒子=タキオン」が現れる場を記述するもので不安定性の兆候として現れます。
タキオン場の基本的アイデア
1. 質量項が負になる場
通常、スカラー場のラグランジアン密度は以下のようになります。

L=12∂μϕ∂μϕ−12m2ϕ2\mathcal{L} = \frac{1}{2} \partial_\mu \phi \partial^\mu \phi – \frac{1}{2} m^2 \phi^2
ここで質量 m2>0m^2 > 0 なら通常の粒子場です。
●タキオン場とは、これが m2<0m^2 < 0 になる場のことです。

L=12∂μϕ∂μϕ+12∣μ2∣ϕ2\mathcal{L} = \frac{1}{2} \partial_\mu \phi \partial^\mu \phi + \frac{1}{2} |\mu^2| \phi^2
このような「負の質量二乗」を持つ場は古典的な安定性が崩れている=真空が不安定ということを意味します。
タキオン場の解釈:真空の崩壊と対称性の自発的破れ
例:ヒッグス機構との比較
ヒッグス場のポテンシャルは次のようになります。

V(ϕ)=−12μ2ϕ2+14λϕ4V(\phi) = -\frac{1}{2} \mu^2 \phi^2 + \frac{1}{4} \lambda \phi^4
これは「山の頂上」に位置するタキオン的な真空を持ちそこから転げ落ちて「谷」に落ち着くという形で
・対称性の自発的破れ(SSB)
・物理的(安定な)質量を持つ粒子の生成
が説明されます。
つまりタキオン場は実際にタキオンを観測できるというより「場が不安定であり、別の状態へ移るべき」というサインなのです。
弦理論におけるタキオン場
弦理論ではボソン弦理論の基底状態にタキオンが現れるためその理論自体が不安定であることを示します。
- タキオン凝縮(tachyon condensation)というプロセスでタキオンが「消える」ことで安定な背景への移行が起きる。
- Dブレーンの崩壊や再編成など、宇宙の幾何構造の変化に対応するとされます。
タキオン場理論の物理的な意味
観点 | 内容 |
質量二乗 | 負の値 ⇒ 安定な真空ではない |
真空構造 | 山の頂上 ⇒ 谷(新しい安定な状態)への遷移 |
現象的な意味 | 対称性の破れ、粒子の質量生成など |
観測的な意味 | 実際のタキオン粒子の検出とは無関係 |
弦理論での役割 | Dブレーンの安定性や時空構造の変化に関連 |
まとめ
- タキオン場は「不安定な真空状態」を意味する理論的構造。
- 実在するタキオン粒子を表すというよりも相転移や場の再構成(例:ヒッグス機構やDブレーンの崩壊*における兆候。
- 「負の質量二乗」は数学的に不安定性を表しそれを克服するための理論展開が重要。
ラグランジアンの導出例やヒッグス機構との数学的な比較などに進んでいくとこのブログの本題と離れていくので、この辺で「SF」系の話に戻していきます。
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